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大阪地方裁判所 昭和57年(わ)5305号 判決

主文

被告人を懲役五年及び罰金四〇万円に処する。

未決勾留日数中四〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金四〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤白色結晶四袋を没収する。

被告人から金二七九万六六〇〇円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  田村純一と共謀のうえ、韓国から覚せい剤を密輸入することを企て、

一  営利の目的をもって、昭和五七年七月一一日、韓国金浦空港から大韓航空七二四便機に、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約六〇〇グラムを着用の毛糸腹巻内に隠匿携帯して搭乗し、同日午後九時三五分ころ、大阪府豊中市螢池西町三丁目五五五番地大阪国際空港に到着して右覚せい剤を陸揚げして本邦内に輸入し、

二  前同日午後一時ころ、前記大阪国際空港内大阪税関伊丹空港税関支署族具検査場において、同支署係員の検査を受ける際、前記覚せい剤結晶約六〇〇グラムを前同様に隠匿携帯して、そのまま通関し、もって不正の行為によって、これに対する関税九万八八〇〇円を免れ、

第二  法定の除外事由がないのに、

一  同年八月二五日ころの午後九時ころ、同府門真市浜町二二番四一号所在の同市立浜町小学校北東角付近路上において、大﨑隆弘に対し前同様の覚せい剤結晶粉末約〇・五グラムを無償で譲り渡し、

二  営利の目的で、同年九月二五日ころの午後九時ころ、同路上において、前記大﨑に対し、前同様の覚せい剤結晶粉末約一〇グラムを代金七万円の約束で譲り渡し、

三  営利の目的で、同年一〇月一九日午前八時五五分ころ、同市石原町一八番二二号の自宅において、前同様の覚せい剤結晶三九・〇八グラム(但し鑑定及び定量試験残量三三・二グラム)を所持し

たものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示第一の一の所為は刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条二項、一項一号、一三条に、判示第一の二の所為は刑法六〇条、関税法一一〇条一項一号に、判示第二の一の所為は覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項に、判示第二の二の所為は同法四一条の二第二項、一項二号、一七条三項に、判示第二の三の所為は同法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項にそれぞれ該当するところ、情状により所定刑中判示第一の一の罪について有期懲役及び罰金の併科刑を、判示第一の二、第二の二、三の各罪についていずれも懲役及び罰金の併科刑をそれぞれ選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一の一、二、第二の二及び三の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役五年及び罰金四〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち四〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収してあるビニール袋入り覚せい剤白色結晶四袋は、判示第二の三の罪に係る覚せい剤で犯人の所有し、かつ所持するものであるから覚せい剤取締法四一条の六本文によりこれを没収し、判示第一の各犯行により被告人が輸入し、かつ関税を免れた覚せい剤約六〇〇グラムのうち、右に没収した分及び田村純一に対する覚せい剤取締法違反被告事件(大阪地方裁判所昭和五七年(わ)第五三〇七号)で同裁判所によって押収されている大﨑隆弘所有の覚せい剤結晶粉末一・五九グラム並びに本件及び右田村の事件での各鑑定のため費消した分(合計五・八九グラム)を除く約五五九・三二グラムは関税法一一〇条一項一号の犯罪にかかる貨物で同法一一八条一項に規定されている輸入制限貨物等に該当し没収すべきものであるが、既に他に譲渡して没収することができないので、同条二項によりその価額金二七九万六六〇〇円(関係証拠によれば、右覚せい剤はその成分が日本薬局方所定の基準に達しているものであると認められるから、現在国内唯一の指定覚せい剤製造業者である大日本製薬の製造する覚せい剤が指定病院に売り渡されるときの価格〔覚せい剤一グラムあたり五〇〇〇円〕をもって、同項に規定する「犯罪が行なわれた時の価格に相当する金額」と解するのを相当とする)を被告人から追徴することとする。

(量刑の理由)

本件は、営利の目的をもって約六〇〇グラムもの多量の覚せい剤を本邦に密輸入し、その際不正の行為によってその関税の支払を免れ、その一部をいわゆるネタ元として密売するなどしたという事案で、その犯行態様は悪質であり、多額の借金の返済に困っていたとはいえ、法禁を犯して安易にその資金を得ようとしたことは遵法精神に欠けるところ甚だしく、その他覚せい剤が社会に及ぼす害悪の重大性に鑑みると、被告人の刑事責任はまことに重大であるが、他面、本件により被告人が現実に得た利益はさほど多額ではなかったこと、被告人にはみるべき前科がないこと、被告人が今後二度と覚せい剤に手を出さない旨誓っており、反省の情を示していること等の事情も認められるほか、被告人の家庭事情なども考慮して主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野孝英 裁判官 楢崎康英 沼田寛)

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